その響きには他者を支配する圧が滲んでいる。
その呼び声には崇拝の念がこもっている。
その叫びには憎しみと怨嗟が絡みついている。
何千年、何万回、それこそ数え切れぬほどに聞いていたそれらに、もう心はほとんど動かされない。
なのに、どうして、今になって、そのどれも持たない声が、聞こえてくるのか。
ただ、呼びかけてくる。
支配したがる声とも崇拝する声とも、消えてくれと恨む声とも違う、ただただ、個人の存在として呼びかける声。
「ミラーク」
下にみてもいない、上に見てもいない、蔑まれてもいない。
そんな風に呼びかけてくる声の、なんと清々しく快いものか。
思わず震えが走るほどに、その呼びかけがこの身に衝撃を与えてくるのを、きっと目の前の人物は知らない。
その唇が、その喉が、再び繰り返し名前を紡ぎあげる。
「ミラーク?」
自分というただの一人の存在を呼ぶ声が、ひどく胸に来た。
それを押し隠して、何だ、と答えれば、呼びたかっただけだと朗らかに笑う気配がした。
もう何千年も繰り返し聞こえてきた声は、もう聞こえない。
これからこの耳に繰り返し聞こえてくる声は、そう、私を救ったお前の、