もうずいぶん長いこと外していなかった仮面を外せば、頬にひやりとした空気が触れた。何処からともなく吹く風が髪を揺らして肌を撫でる。
新鮮な空気が肺いっぱいに入り込み、思わず深呼吸しかけるところを寸でで留める。
空を仰ぎ見た。残念ながら降灰で茶けた色味をしていたが、長い年月籠められていたオブリビオンの領域に比べればそれすらも感嘆に値する。
ぐるりと周囲を見渡した。ミラーク聖堂と名付けられたこの場所は、今は静かなものだ。ほんの数日前には、服従させたソルスセイムの民が黙々と聖堂の修復を行っていたはずだが、今はもう見る影もない。
何とも言えない感情が一瞬胸中を渦巻いたが、パタパタと風にあおられて物音を立てる粗末なテントの音でそれもすぐに掻き消えた。
――さて、これからどうするか。
何処までもついてくるつもりらしい自分の信者二人は、静かに背後に控えている。
彼らを連れて、今後来るであろうハルメアス・モラからの刺客の手から生き延びねば。そのためにはいつまでもここ、ミラーク聖堂にとどまっているわけにはいかない。ひとところにいるのは危険が過ぎる。
とはいえ、行く宛はなかった。
かつて自分が自由に闊歩出来ていた時代とは違う。
覚えている風景は既に失われ、風化し、あるいは人の営みに揉まれて変化しきっていた。もはや朧げな記憶はあてにはならず、辛うじて行えた干渉で見た光景を頼りにするしかない。
最後のドラゴンボーンが倒したドラゴンの魂を、かの人が吸収する前に横取りした、その瞬間に見える僅かな光景。あれはスカイリムかソルスセイムか、はたまた異なる土地か。
思案していても仕方ない。緩く首を振り仮面をつけ直す。すっかり馴染んだそれで隠しきれなかっただろう感情に蓋をする。見て見ぬふりをする信者たちは、彼の意を汲んで荷物を纏め始めていた。
降灰の中で掻き集めた僅かな物資と、大きなテント。それを抱えて、まずは何処に足を向けようか。
支配するはずだったソルスセイムの中を歩き回ろうか。
それとも海を渡り、スカイリムへと足を向けるか。
不気味な音を立てていたアポクリファとは違う、移ろいゆく空が美しいニルンの世界を宛てもなく旅するのもいいかもしれない。
ふ、と口端に笑みが浮かぶ。
再び仮面越しに空を見た。流れる灰の隙間から、うっすらと青い空が見える。何だか眩しい気がして目を眇め、つんと鼻の奥が痛んだような気がした彼の耳に、ざり、と灰を踏みしめる音が聞こえるまであと僅か。
初めて書いたスカイリム小説