カミュとニーナに関する考

■避けようのない運命——カミュとニーナ、その悲劇の本質

ファイアーエムブレム暗黒竜と光の剣、そして紋章の謎における「避けようのない運命」。このテーマにがっちりとはまるのが、ドルーア帝国対アカネイア王国の対立構造の下で翻弄される二人の人物、カミュとニーナです。
お互い、立場上は敵同士であり、決して手を取りあえる仲ではなかった。しかし、カミュの人生の礎である騎士道精神が、年若い王女を傷つけることをよしとせず、またドルーア帝国に引き渡したり処刑することも出来ず、彼女を密かに匿う事にしたこの尊い決断が、後の彼らを悲劇へと導いてしまうのです。

彼らはアカネイア戦記で、その出会いから別れまでを描かれ、本編への悲しい再会へと繋がります。その描かれていなかった2年という期間の間、敵同士であるはずの二人の間には愛が芽生え、惹かれあっていたとファイアーエムブレムヒーローズでのキャラクター紹介にも書かれています。

後に、最初の出会いの時にカミュに対して反発していたニーナが、亡命直前に「一目見た時から好きだった!」という告白をした場面からも察せられる通り、この出会いは憎しみを感じながらも抗えない感情によってニーナがカミュに惹かれ、恋をし、またカミュもそれに応えていた可能性を示唆しています。事実、彼のセリフには「ニーナ…臆病な私を許してくれ。ニーナ…私は……」というセリフがあるように、ニーナに特別な感情を抱いていると思わせる部分があります。

この特別な感情がカミュを駆り立て、亡命するニーナを守り抜き、一個大隊を相手に獅子奮迅の働きをしてみせたのです。この愛があれば、これだけ愛を示していながら、カミュはニーナとともにドルーアの手から逃れ、「愛」に生きる道もあったはずなのですが、彼は彼の「全人生」だと言う「忠義」である騎士の道を選んでしまった。…悲劇ですね。

それゆえに、この二人の未来は愛と悲劇に満ちた悲しい終わりを迎えるわけですが、この結末には、当時の日本の風潮を色濃く反映した作品であるからこそ、だと考えます。そして、ニーナはその最も根強い風習によって悲劇の結末へと追い込まれた女性である、と思うのです。

■女性たちの行く末:なぜ誰も「女王」になれなかったのか

このゲームの中には、ニーナをはじめとした王女が数名出てきます。ニーナ、エリス、シーダ、ミネルバ、マリア、シーマ。
彼女たちはそれぞれ、王家に連なる女性であり、当然継承権も保有しているものと考えられます。しかし、ゲームの終了とともに、彼女たちはどうなったでしょうか?
そう、誰一人として、「女王」にはなっていないのです。一時的にトップに君臨したミネルバやシーマの例はあれど、みな結局は市井に下るか、夫を支える「妻」という立場に落ち着きます。

ニーナはどうでしょうか。彼女は正当なアカネイアの継承者だったが、女王にはなれなかった。皇帝の妻という立場に追いやられたニーナ。政略結婚を強いられ、愛するカミュを失った悲しみが癒えぬうちに、夫ハーディンの暴走に巻き込まれます。軟禁、生贄、解放を経て、最後は王位を退き、民間に下る——あまりにも苛酷な運命です。

この作品の発表当時、日本の風潮は「女は男の一歩後ろに下がり、夫を黙って支え、理不尽に耐え、離婚は避けるべきものであり、恥」でした。それが色濃く反映されているのです。
後の作品では女性であるティニーがフリージ公家を継ぎ、アーサーがヴェルトマー公家を継ぐ、という結末も迎えられこそしましたが、やはり聖槍ゲイボルグの所有者で長女であるアルテナ王女は後継者ではなく、弟のリーフ王子が王になります。バーハラ皇家においても、正当なナーガの使い手であるユリア皇女ではなく、セリス公子が皇帝になりました。どれほど正当な立場にあろうとも、女性たちはその座を男たちに譲る結末を迎えました。それは、当時の日本社会に根付いていた価値観の、無言の圧力を映し出しているようにも見えます。
その中で、やはりニーナの悲劇性は別格でした。特に、最も高貴な姫という立場でもあり、物語の中心地にいる女性であるため、余計にそれは悪目立ちしているように思えます。

■忠義が招いた孤独:カミュ=シリウスの結末

また、当時の日本社会は「長年勤めあげること」「終身雇用」が最も良いことで、すぐに職を変えるのは軽薄であり、会社の忠誠心にも欠けるとして、非常に厳しかったというのも背景にあるでしょう。短くとも三年勤めろ、とも今でも社会にはびこり残っている意識ですが、このような社会風潮が、カミュにとって忠誠を変えるという選択肢を取りづらいものにしていた可能性もあります。

武士道的な価値観——忠義や、他人の妻に手を出すのをよしとしない精神——も、シリウスの結末を形づくった一因だったのかもしれません。
海外には、アーサー王物語のランスロットとギネヴィアの例がありますが、カミュ=シリウスは前者であり、後者にはなりえなかった存在だと思うのです。

■おわりに:ニーナの悲劇性と時代の闇

新・暗黒竜と光の剣、新・紋章の謎において、同じく悲劇的なキャラクターであるミシェイルには、救いの手が差し伸べられました。しかし、ニーナはそのままにされています。新・アカネイア戦記の再録だけが、彼女とカミュとの愛の残照を覗きみられる唯一の鍵ではありますが、その末の結末は、このゲームの根幹を支える女性、ニーナというひとりの無力な女性の犠牲の元、織りなされているのです。

この当時の現実世界における時代背景と風潮、ゲームに反映されたその価値観を重ねて考察すると、「時代」の「闇」が彼らを引き裂いた、という結論に私は至ります。

今もなお、彼らが紡いだ愛と、その末に訪れた悲恋に心が痛みます。年月を経ても色褪せないこの胸を締めつける物語は、避けようのない運命に翻弄された恋人たちの、時代の風潮が生んだ悲しみなのです。

個人の感想です。あまりにも悲しいので色々考えて、発売年数を考えて、当時の風潮を思い出して…としてたら、こういう結論に至ったというボヤキです。