――先に手を取ったのは、どちらだったか。
普段何気なく触れているときとは違う、熱を孕んだ掌をしっかりと繋ぎ合わせれば、そこからじわりと何かが広がるような気がした。
は、とどちらのものか判別できない吐息が耳朶を掠める。それがビルドのものなのか、あるいはシドー自身のものなのかは今はどうでもよかった。
握り合わせた手とは別の手で、そろりと肌をなぞる。
肌理が細かく瑞々しいそれは、うっすらと色づいて微かに汗ばみ、なぞる指先に吸い付くようだ。その感触を触れさせた指先で楽しみながら、シドーは確かに息づくものを感じ取る。
眼下で、薄く開かれた唇から掠れた声を漏らした。それは蜜のような甘さを帯び、優しく鼓膜を揺らしてくるが、それ以上にシドーの心身を衝く。ごくりと無意識に喉が鳴った。
熱帯びていく感覚がじわりと増す。微かながらもっと強く触れてもいいのではと粗暴な欲が顔を覗かせる。しかし、それを押しとどめるだけの理性は残っていた。
慎重に、しかし愛情を持って触れる。最初こそ緊張に震えていた身体が、思いのほか優しい手つきで触れてくるシドーの愛撫に、徐々にやわらかく緊張を解いていく様が胸に来る。
程なくして、ぎゅう…と繋ぎ合わせていた手に力が込められた。不意のそれは、ビルドにとってその時点の精一杯だったのだろう。頬を染めながら、潤んだ瞳で見上げてくる。その瞳を見つめながら、シドーも緩くその手を握り返した。
シドーにとっては儚い力だが、自らの意思で握り返してくれたことこそ、何よりも衝撃的で愛しい。
「ビルド」
無意識に声が一段低く掠れる。普段の声とはまるきり響きが違うのをシドー自身でさえ気づいたのだから、呼ばれたビルド自身は余計に察知出来てしまったのだろう。いつも呼ばれ慣れている響きとは違うのを敏感に感じて、ビルドの肩が小さく震えた。
しかし、ビルドが溶かされたはずの緊張を再度帯びたのは繋いだ指先まで強張った一瞬の間だけで、数度の瞬きの後にはビルドの目元がさらに色づいていく。たまらなかった。
「シドー」
熱く甘い響きで名前を呼ばれる。それは先程と同じようにシドーに揺さぶりをかけ、どくりと鼓動が跳ねた。おそらくビルドも同じような状況だったのだろうか。朧気にそう思いながら、シドーは満たされていくような感覚に身を浸す。
胸がいっぱいになるというのは、こういうことなのかと新鮮に思った。
しかし、それを押しのける勢いで熱が募ってくる。
いつまでもこうして愛しんでいたいと思う反面、激しく強く掻き抱きたくて仕方がない。
欲望が渦巻いて身体の中で暴れまわるのを感じた。けれど、繋ぎ合わせた手を解くのも、優しく撫でさする手を止めるのもどちらも嫌だった。今はただ、この儚い接触だけを、このひとときだけに浸りたい。
気を抜けば顔を覗かせかねない熱を抑え込むように細く息を吐いた。そして、眼下にある柔い唇にそっと唇を寄せる。
「ん、……しどぉ………」
やんわりと重なっただけで、すぐに離れてしまったそれを惜しむように、吐息混じりに呼ばれる。それだけでずくりと身体が反応したのがわかったが、シドーは表面上の変化は悟らせずに、続いてビルドの額へと唇を落とす。
本当はこれだけでは物足りない。もっと長く重ねていたいし、それ以上にめちゃくちゃに可愛がりたいとも思う。
だが、出来るはずもない。
己の中にある欲望を解放した結果、どのような事態になるのか。可愛がりたい反面、無茶苦茶にしたいそれを押さえきれる自信などない。
欲望に忠実ではいられない。
奥歯を噛みしめ、シドーはまだ触れていさせろと切望する己の手を無理矢理ビルドから離した。そしてその手をビルドの腰に移動させて、ぐい、と抱き込む。少し緩んだ繋いだ手は再び繋ぎ直し、しっかりと密着させるとすり…とビルドが頬をすり寄せてくる。そのしぐさが愛らしく、つきんと胸の奥をさした。
その微かな痛みと暴れ狂う感情をごまかすように固く目を瞑る。そんなシドーをそろりと盗み見たビルドの瞳にも、似た熱が孕んでいることにシドーは気づかない。
甘く優しい接触によって点されたものが、止められないほど燃え上がるまであと少し――……