その手を、




 薄暗い闇の中に浮かび上がる白い肌に唇を寄せて、薄く色づいた胸の飾りを摘む。
 浮き上がった背中に手を差し入れて、引き寄せるように抱きすくめれば、細い腕が背にまわった。
 震えている身体を宥めるように、白い肌のあちこちに唇を落とす。潤んだ瞳がすがるように見つめて来て、大丈夫だ、と口にする代わりに、その唇をやんわりと塞いだ。
 花の蜜のように芳しい、においたつようなこの肢体。触れ合った肌と肌とが気持ちよくて、もっと、と希ってしまう。
「や、あ……しど、おにいちゃ……」
 震える唇が、控えめに訴えてくる。あまり自分でも弄ったことのない場所に到達したシドーの手を咎めるように、うっすら眦に滲んだ涙と、掠れた声が、そんなところ弄らないでと言わんばかりに。
 けれど、そんな瞳で見られれば逆効果――シドーは、いやなんて嘘だろう、とその唇をやわらかく緩めて、まだ幼いそこに指を絡めた。
 ほんの少し反応しただけのそこが、シドーの指が絡むとすぐに屹立する。精通を知らないのだろうか、それとも……興味を惹かれながら、やんわりと刺激を加えていけば、戸惑った声と気持よさに喘ぐ吐息とが入り交じって、壮絶な色気を醸しだす。
 戸惑いは慣れていないから、そして吐息は、快感を得ているからか。
「あ、…やだ……っ、なんか、へん、だよぉ……っ」
 未知の感覚に潤んだ瞳が、シドーの姿を映し出す。震える指が縋りつき首の後ろを掻いて、ささやかな痛みが走るが、それさえもシドーの胸に熱い思いをともすだけ。
 やめようなんて思わない。
 もっと、もっと可愛い姿を見せてほしい。
「ああ…っ、や、や、何か…来ちゃ……っ」
 震える身体に朱が走り、幼いそこを刺激し続ける指に蜜が絡む。くちゅ、と音を立てるそれを恥じて、頬まで薔薇色に染めあげて、びくっと強張った身体が、迸った蜜が、そしてイった瞬間の可愛い顔が、シドーの熱を押し上げた。



『おにいちゃん、だめぇ…っ』
 可愛い嬌声を最後に、ハッと目を醒ましたシドーは、目の前にあるいつもと変わらない光景に、寸前まで見ていたものがとんでもなく欲望混じりの願望が見せたものに過ぎないものだと即座に気づいた。
 そして感じる妙な感覚に、ハァ…と深い溜息を吐く。
 なんてことだ、と頭を抱えたくなる反面、あれが現実であればと切望している自分を自覚している。
 それでも、それを押し隠して、こんな欲望をいだいているのだと悟られないように細心の注意を払ってきたというのに、今にも外れそうな箍の隙間から、嘲笑うように本心が漏れ出して、夢でシドーを悩ませる。あるいは、囁きかけてくるのだ。
 ――いつか、他の誰かのものになってしまうよ、と。
 それは当然の成り行きであり、摂理であり、そしてそうあるべき道だというのに。
 囁きかけてくる声が、澱んだ声が――……
 起き上がり、首を緩く振った。深い溜息をひとつ残して起き上がる。いつもなら素早く降りられるベッドも、今日は何か引き止める腕があるかのようにずっしりと重たい身体のせいで、のろのろとしか降りられなかった。
 部屋を出てまっすぐ浴室に向かう。
 熱い湯を浴びながら、瞼の裏に蘇る白い肢体を忘れようと、せめてあの子の――ビルドの前にいるあいだはフラッシュバックしないようにしようと自己暗示をかける。
 思い出してはならない。
 しなやかな細い身体が、シドーを望んで開かれた、あれは夢なのだと。
 言い聞かせなければ。
 そしてビルドが起きてくる頃には、いつもと変わらない日常を。
 その手を、他の誰かの手に重ねるまでは、オレは『いい兄』でいるべきなのだから―――…