ぎし、と音を立ててベッドの端に腰を下ろした。スプリングがきいて、変に沈み込むこともないそれは、座るにはちょうどいい。
しっかりとしたつくりに関心しつつ、すい、と視線を前に向ける。その先には、閉じられたドアの前で所在なさげに立っているビルドがいた。
そんなビルドを手招きすれば、おずおずと近づいてくる。しかし、あと一歩手が届く寸前で止まってしまい、シドーは不満を感じる。
「ビルド」
呼びかければ、ぴくりと細い肩が震えた。それでも、あと一歩をつめるのを躊躇うのか、視線を落とすビルドにたまらなくなる。
長い喧嘩がようやく終わった。そうして苦闘を乗り越え、苦難を打破して、ようやく落ち着いたのだ。その実感をしっかりと感じたいというのに。
否、喧嘩が長すぎたからかもしれないと思い直す。
長引けば長引くほど、以前していたことに躊躇いがでる。仲直りしたときのことを考えてはいても、本当にそうしていいのかと迷ってしまう。シドー自身もそうだった。
突っ立ってないでこっちにこい、と以前のシドーなら容赦なく腕を掴んで引き寄せただろう。けれど、今のシドーはそれができない。
まだわずかに残っているわだかまりが、その一歩分に凝縮されているのがわかる。
どちらかがそれを打破しなければ、いつまでもそのままだということもわかっている。
けれど、その一歩をつめることにひどく勇気がいるのだ。
以前のように接していいのか。
あの頃のように、深く悩まず、思いのままにしてもいいのか。そうすることで、困ったりしないか。
考えもしなかった迷い、戸惑い、不安が次々とわき起こる。けれど、いつまでもそのままではいられないのだ。何故なら、ここは二人の部屋なのだから。
シドーはまっすぐにビルドを見る。こちらを見ないビルドの考えは一切読めない。けれど、後方のドアへと意識が向けられていないことだけはわかる。もしそうであれば、すぐにくるりと踵を返せばいいだけの話なのだから。
それをしないのだから、ビルドはここにいたいのだ。
そう踏んで、シドーはぐ、と胸を決める。そうして、シドーはその両腕を広げた。
「ビルド。……来いよ」
一か八かの賭けだった。
ビルドのすべてを受け止めるつもりで、そうした。
「………っ」
名を呼ばれ、来い、と言われたビルドが顔を上げる。そして、ベッドに腰を下ろしたシドーの両腕を広げた姿に、ぐ、と一瞬泣きそうな顔をした。
失敗したか、と焦ったのもつかの間、つめれなかった一歩を越えて、ビルドが腕の中に飛び込んでくる。瞬時に、迷わず強く抱きすくめた。儚い力でシドーを抱き返す腕がある。
ようやく感じることが出来た互いのぬくもりに、わだかまりが溶けていく。自然と見つめあった瞳は以前と変わらず……否、以前よりもより強く互いを想う色が宿っていた。そのことに気づいて、歓喜が宿る。思わず抱きしめる腕に力がこもれば、苦しいと笑われた。
どちらともなく笑いあい、そして瞳と瞳が見つめあう。言葉も前触れも必要なく、自然と唇が重なった。
長い長い離別はようやく終わり、再び同じ道を歩んでいける。そのことを喜びながら、二人は静かに互いに浸り、溺れていった。