寝かしつけ




 寝苦しい夜だった。
 いつもはそれほどでもないのに、何だか湿気が多いような気がして、寝つきが悪い。
 寝返りを打って、寝やすい体勢を探るものの、ちっとも睡魔は訪れなかった。
「ああ、もう」
 とうとう寝るのを諦めて、上半身を起こしたビルドはいっそこのまま朝まで徹夜で物づくりでもしてしまおうか、などと考えてしまう。むしっとした暑さに耐えられそうもなく、着ていた寝間着を緩めてベッドを降りた。
 工房で夜を明かすつもりで、そろりと足を踏み出す。隣のベッドでは、こちらの気も知らないでシドーがすやすやと眠っていた。蒸し暑くないんだろうか。うらやましい、なんてうろんな視線を向けたところで、この寝苦しさが変わるわけでもない。
 ひとまず、一度工房へ………とそろそろと部屋を出ていこうとしたビルドだったが、その手がドアノブにかかる前にがしりと掴まれてしまった。
 気配を感じさせず、いきなり掴まれた手に思わず悲鳴が零れる。
「……っ、おい、何処に行くつもりだ」
 きん、と響く悲鳴を煩わしそうに聞きながら、ビルドの手首を掴んだのは寝ているはずのシドーだった。
 己の手に触れるものが、得体のしれない何かではなくシドーのそれだとわかると、ビルドはほっとした反面、驚かせないでよと抗議する。しかし、こんな時間にこそこそ出ていこうとするからだ、などと言われれば、素直に理由を話すしかない。
「はあ? 寝苦しい? ………そうか?」
 どうやらシドーにはこの寝苦しさがわからないらしい。妙に身体が熱いし、何だか寝ていられないんだ、とぶつぶつぼやけば、シドーはふむ、と何か思案するそぶりを見せた。
「………寝かしつけてやろうか」
 そして、思いのほか優しい提案がなされたけれど、その奥に潜む不穏さにそのときビルドは欠片ほども気づかなかったのである。





 暑いのに、と文句を垂れるビルドをベッドに戻して、狭いそこに遠慮なく侵入する。
 狭いよとさらに文句が返ってきたが、構わずに添い寝するように身を寄せれば、おとなしくなった。
 そっと細い身体を抱き寄せる。布越しに伝わる体温は確かに少し火照りを帯びているようで、これでは寝苦しいのも当然かもな、と何とはなしに思った。
 だが、果たしてビルドは気づいているのだろうか。
 この寝苦しさの理由がどこからきているのか。
 優しく抱擁を交わしつつ、シドーはしばらくそのぬくもりを堪能した。
 しばらくの間、静かな互いの呼吸音だけが響き渡る。そうしながら、ぬるい手つきで睡魔を促すように背中を撫でた。今は、特に意味を含んではいない。
「ん……」
 安心感を促す行動は、ビルドの警戒心を緩ませる。特にこうして抱擁されるのは好ましいらしく、素直に身を預けてくる彼はとても可愛かった。
 そんなビルドを感じながら、すっかり気を許した頃に、シドーはその手を緩やかに移動させた。背中から腰へ、腰からなだらかな丘を描く臀部へと、するすると移動させる。そのときになってようやくハッとした様子だったが、やわらかく揉まれて息を詰めた。
 この程度のことで、熱い呼吸が漏れ出しているのを、果たしてビルドは気づいているのだろうか。
 やめて、と訴える声が強請るような響きを帯びていることに、一瞬強張った体がシドーのてのひらに押しつけるように揺らめいていることに、気づかないのだろうか。
 やがて片手はそのままに、シドーは利き腕を臀部から外して前に伸ばした。乱れてもいない着衣の上から、ゆるりと急所に触れる。ひと際大きく跳ねたのは、もうそこが兆しているからだとすぐわかる。それと知れると、至近距離のビルドの顔が暗闇でさえわかるほどに赤らんだ。
「あ、やだ…っ、触っちゃ………」
 とっさにぎゅう、とシドーの服を掴んだビルドの指先には、力はこもっていない。ぴくぴくと震えて、すぐに外れてしまいそうだ。その手に手を重ねてやりたかったが、シドーはちら、と緩んだ寝間着から垣間見える扇情的な胸元を視界におさめ、布越しではなく直接触るべくビルドの股間へと手を差し入れた。
 隠されたそこは、すでに硬くなっていた。ゆるゆると撫でたあと、敏感な先端を親指で弄る。途端に、ぴくぴくと反応して、シドーの手を押し返すまでになったそれは、どくどくと脈打ち、じわりと雫を滲ませ始めていた。親指を掠めるごとに、ぬるついた感触が触れるから、直接見なくてもすぐわかる。
「あ、あ、……だめぇ……」
 口先ではそう嫌がっているビルドだったが、シドーの手の動きに合わせて腰を揺らしていることにも気づけない。
 淫らな様に喉が鳴った。
 いよいよ着衣が邪魔で、いったんシドーがビルドから手を離せば、抗議するかのように甘い上擦り声をあげる。潤んだ瞳がシドーを映し、そこに宿る熱っぽい色気に一気にシドーの体温も上がった気がした。
 丁寧に脱がしてやろうと思った服を、勢いよく脱がせる。ボタンが取れそうになっていたような気がしたが、構わず脱がして床に放り投げた。
 色づいた肢体が眼下に現れる。中心はシドーの手によって愛撫され、すっかり形を変えていた。
 シドーの手を失ったことで、刺激が与えられず、物足りなさに悶える裸身がベッドの上で蠢いた。いやだと言っていたはずのその口が、シドー、と甘く強請る。
 脳が沸騰しそうな錯覚に襲われ、迷わず手を伸ばした。
 遮るものがなくなった裸身は熱く火照り、その先を知っているからだが誘う。応じて、そのしなやかな足を片方だけ担ぎ上げた。
 あられもない箇所が空気にさらされる。羞恥心が蘇り、恥じ入る様は初心で可愛らしい。
 しかし、構わずにそこに指をあてると、あ……と熱い吐息を零して瞼を伏せた。
 そのまま、ゆっくりと指を挿入すると、熱い内部に歓待される。
 きつい抱擁を受ける中、傷つけないようにゆっくり差し込み、引いては挿入し直した。
 ゆるゆるとそれを繰り返せば、やがて花開くように綻んでいく。
「あ、あ……っ、ン、し、しどー……ねえ……っ」
 恥ずかしい体勢でその刺激を受け続け、とろとろと雫を零しながらビルドが口を開いた。みなまでは言わない、欲しがるそぶりを感じてはいたが、構わず無視して指を増やす。少しばかりの嗜虐心を煽るのが悪いと、増やしたそれで弱い箇所を突いてやれば、びくびくと反応を返してくる。
 このまま手で達かせてやってもいいか、とそんな考えがちらりと脳裏を掠めたが、ふるふると首を振った自分でそこを押さえながら、
「やあ…っ、シドー…っ、シドーので、達きたい……」
 と涙声で言われてしまっては、流石のシドーも我慢はきかなかった。
 ずる、と指を抜いて、自分だけは乱してもいなかった着衣の間から隆々とそそり立つモノを取り出す。脈打つそれはビルドのそれとは比較にならない熱量で、ひたりと緩んだ入り口に添えられればくちゅりと淫らな音が鳴った。
 恥ずかしさは一瞬のことで、熱い塊が痛みと強烈な快楽を伴って入ってくる。目の前が眩む刺激に嬌声を上げながら、シドーのそれを受け入れてくれるビルドは健気で、そしてどうしようもなく興奮する。
 ゆっくりと入ってくる最中にも、どくどくと硬く太くなるシドーのものが、ようやく根元まで入った。ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返し、いつの間にか泣き濡れた頬をさらしながら、ビルドはその強烈な体感に戦慄くのが止められないようだ。そんなビルドに優しくしてやりたいが、シドーもそろそろ限界だった。
 そもそも、寝苦しい理由が何なのか。いまいち自覚がなかったビルドが悪い。とシドーは責任を転嫁する。
 何をするにしても色っぽい吐息を零すようになったここ数日のことを思い出しつつ、こういったことを異様に恥ずかしがるビルドを無理に抱くのもどうかと我慢していたのを褒めてほしい。
 けれど、頬を色づかせて、寝苦しいんだ、とその理由に思い至りもしないで、シドーを置いていこうとしたビルドに、我慢することを放棄したのも事実。
 しかし、今となってはそんなことは些末なことだ。
 ゆるゆると腰を動かし始めながら、シドーは熱い中を堪能する。久しぶりのそこは酷く甘くシドーを迎え入れ、離すまいと絡みついては熱を欲して締めあげてきた。
 快い締め付けに気をよくして、徐々に激しく突きあげ始める。聞くに堪えない淫らな水音が徐々に大きくなり、呼応するように反応も良くなった。
 ひっきりなしに響くビルドの声が、シドーの腰を痺れさせる。ぬるつく中は酷く悦く、もっと求めたくなってしまう。少し角度を変えて、鋭く中を突いた。ぐりぐりと奥を捏ねまわして引き抜くと、過敏に反応して先端から雫を吹き零す。
 血液が沸騰しているかのような興奮に見舞われ、それこそ襲いかかる勢いで腰を打ちつけた。
 強烈な過ぎた快楽に、ビルドが先に達する。白濁の液が飛び散り、白い腹を濡らす様にまた興奮して、容赦が出来なくなっていく。
 ぬかるんだ熱い最奥に、精を解き放った。自分のものとは違う熱さに震えて、ビルドが喘いた。その唇にむしゃぶりついて、舌をからめとりながらさらに律動を繰り返す。すぐに硬度を取り戻したそれは、二度三度とビルドが達しても容赦なく突きたてられ、やがて夜が明け空が白んできてもまだ抜かれることはなかった。



 ようやく解放されたのはもうすっかり外に太陽が昇りきった頃だった。
 寝かしつけてくれるはずだったのに、結局徹夜だと不満を感じる。
 けれど、妙に寝苦しかった感覚は今はなく、だるいがどこかすっきりとしていた。
 ただし、疲れて異様に眠い。眠くて仕方ない。
 どろどろになったシーツの上でぼんやりとそんなことを考えていると、桶に水を汲んできたシドーが戻ってきた。
 散々抱きつぶしてくれた彼は、ひどくすっきりした顔をしている。それが少し憎たらしいと同時に、優しい手つきで身体を拭われると逆に愛おしくなってくる。
 蕩けた吐息を零して、眠いし身体が痛いよ、とぼやけば、すまん、と謝られたが、ビルドはくすりと笑ってシドーに手を伸ばした。
 色々と今日もやる予定だったが、もう足腰は立ちそうにない。それに眠いし、徹夜は身体に悪いから。
「一緒に寝よう」
 そんな誘い文句を口にして、使っていないベッドに運んでもらったビルドは、シドーにぼそりと注意されてようやく暑苦しかった理由を知った。
 そっかぁ……僕、溜まってたのか……
 納得がいくと同時に睡魔にとらわれる。
 起きたら間違いなく恥ずかしくなってあーうーと唸ってしまいそうな理由だったけれど、今は睡魔が最優先。
 重い瞼が落ちて、ようやく眠りにつけたビルドは、優しい眼差しで見つめるシドーに抱き寄せられ、いい夢を見ることが出来た。