それを認めた瞬間のビルドの表情ときたら、酷く驚いて瞠目し、平静を装うつもりが失敗し、笑おうとして泣きかけた……そんな複雑かつ難儀な顔をしていた。
交わしたキスを解くのも待てずに、互いに互いの衣服を探り、シドーはビルドのシャツを引っ張り出して捲くりあげる。ビルドはシドーのベルトのバックルをようやく外したところだった。
「う、……ふ、ぁ…っ!」
くちゅ、と弱い上顎を尖らせた舌先でつつくと、面白いくらいにビルドの肩が跳ねた。パッと散った桃色は頬や耳朶までも染め上げ、実にそそる。
夢中で唇と、唇の中を荒らして甘い舌を吸い上げる。ちゅく、と鳴り響く水音がずくりと腰とその奥にきて、たまらなくなるのを感じながら、シドーはもどかしそうに触れるビルドの手を好きにさせていた。
する、と衣擦れの音を奏でながら、ビルドがようやくシドーの上着を肩から滑り落とした時にはもう、ビルドはほぼ全裸状態で、キスの合間に悪戯されてすっかり尖った胸の突起も、前回抱いたときにつけたキスマークも鮮明にシドーの眼前にさらされてしまっている。
『……もうこんなに反応してるのか』
声には出さずに、ふつりと尖った感触をまさぐる指先で感じてほくそ笑む。こりこりとした感触がダイレクトに伝わり、そのたびにひくり、と組み敷いた身体が反応しては、重ねた唇の奥で絡めた舌先が強張るのを感じた。
いじらしく勃ちあがった突起を愛撫しようと、ちゅっと唇を吸ってから、混じらせた体液を繋がらせて、一種の淫靡さを纏わせながら唇を外す。疾うに蕩けた瞳が潤んで、シドーを見つめて震えていた。
「は、ハ………っン、しどぉ……」
濡れた声音が、甘い響きを伴って鼓膜を揺らした。それを聞いた途端にまた、ずくりと腰の奥が熱くなる。
まだ本格的に触れているわけでもないのに、そこが熱く熱を持ち始めているのを感じながら、シドーは濡れた唇を隠そうともせずに口許を笑ませると、ゆっくりと頭をおろしていった。
唇から顎の先を掠めて、喉仏を軽く噛む。ぴくりと震えた肌に目を細めて、鎖骨にも軽く齧りつき、ようやく到達した突起を尖らせた舌先でつつくと、ビルドの唇からは甘く掠れた喘ぎが零れた。
ちら、と上目で突起への直接的な刺激に震えながら反応するビルドを見つめる。眉を顰めてふるふると小刻みに震え、赤く色づいた唇を戦慄かせる様は、シドーの嗜虐心を煽ってやまない。
けれど、それ以上に悦くしてやりたい気持ちも膨れ上がり、シドーは迷わずそれを実行した。凝った突起に舌を絡めてねっとりと舐めあげ、びくびくと揺れる身体を感じ取りながら、ちゅうっと強く吸う。
「…っあ!」
びくん、とひときわ大きく跳ねた身体と、ぎゅう、とシドーの腕を掴む指先からも、感じているのが伝わってきた。
突起を吸い、甘く噛み、舌先でつつき…飽くことなくそれを繰り返しながら、今度は放り出されているもう片方も指先でこりこりと弄った。弾力のあるその感触に再び笑みを浮かべながら、頭上から響く甘ったるい声音を心地よく聞いた。腰とその奥にクる声だと改めて思う。
「ふぁ、あ、……っしど、やぁぁ…!」
キスと胸へと刺激だけでこんなにも反応して、持たないんじゃないか、と思うものの、胸にせりあがってくる気持ちは呆れなどではなく、もっと熱くてきゅっと胸を締めつけるかのようなものだ。ただ、感じさせて気持ちよくさせたい。その奥底にはもっと啼かせたいという気持ちもなくはないけれど、今のシドーにはそれを上回って、甘い刺激を与えたいと思う感情のほうが強かった。
「可愛いな、ビルド…」
何度目も思った感想を呟きながら、シドーは刺激を受けすぎて敏感になりすぎた突起に軽く歯をあてた後、伸び上がって喘ぎを零し続けるビルドの唇を奪った。
すっかり荒くなった呼吸を零し続ける唇に己の唇を重ね、潤んだ瞳がゆらゆらと己を捉えるのを待つ。
「は、あ、……っん、シドー……」
蕩けた瞳がようやくシドーを捉え、特別な響きで呼びかけてくる。潤み、熱のこもった瞳はシドーの顔を認めるなり、羞恥と欲に濡れ、悦びと喜びに満ちていた。腕を掴んでいた指が緩み、する、とシドーの背中にまわる。く、と引き寄せる微かな力に抗わず身を寄せると、素肌がビルドの素肌に密着した。そのぬくもりや汗に湿った感触が触れて、とくりとくりと速まる鼓動さえも伝わり、どちらともなく充足の吐息が零れた。
他のヤツにはこうは思わない、ビルドだから、こんなささやかな触れ合いにですら、満たされるのだと知ったのはいつだったか。
ほんの僅かにそんな事を考えていると、余所事を考えるなとばかりに、潤んだ瞳に睨まれて、笑ってしまう。
「ん、…何だ? 言いたいことははっきりいえよ」
そう囁いてみるものの、普段の素直さが何処にいってしまったのかと思う程に、こういうときのビルドは素直じゃない。またそれが嗜虐心を煽るというのに。ス、と逸らされた瞳は、けれど目許を彩る朱に何となしに彼の感情を伝えるから、シドーは特に追求はしなかった。そういう気分のときはもちろんそうするが、今はそんな気が起こらない。
ただひたすら、甘く乱してやりたくて、逸らすとキスしないぞ、と砂糖のような甘みを含んだ囁きを吹き込めば、拗ねた瞳がシドーを捉えた。キスされないのはいやだ、という意思表示にまた笑みが浮かび、シドーはたまらずにその唇を覆う。
たっぷりと唇を重ね、舌を絡ませて、同時に密着した身体を抱きしめた。煽られた熱を押しつければ、恥じたように潤んだ瞳がさらに蕩ける。
ああ、もう……たまらないぜ…
そんな感想を胸中で呟きながら、飽きることなく重ねた唇を外して素肌を撫でた。微妙な、触れるか触れないかの絶妙さでなぞられるのが悦いらしく、ぞくぞくと震える組み敷いた身体が、そのたびに密着した素肌に触れたり、ごく僅かに離れたりするのを楽しむ。
シドーのすること為すことすべてにいちいち反応するのが、楽しくもあり、愛しくもあった。
そうするうちに、そろそろきつくなってきた自分を感じて、シドーは同じくきつい状態だろうビルドの中心に手を伸ばした。硬く勃ちあがりとろりと蜜を伝わせるそこを優しく弄る。
「は、あぁ…っ」
弱い先端を弄りながら、密着していた身体をほんの僅かに離してずるずると肌に舌を伝わせる。濡れた感触がもどかしいのか、ひくりと反応する身体が、背中にまわした手が緩んで、ぱさりと落ちた。そして、潤んだ瞳が揺らめきながらシドーを認めたところで、突如、変貌する。
ちょうど、弄りつくした突起に再び舌を這わせようとして、ちらりと様子を伺うつもりだったシドーは、快楽を享受して甘い響きを心地よく聞いていたのに、不意に途切れたまさにその瞬間を認めて、眉を顰める。
甘く蕩けていた表情が強張っていた。何が―――
そう思って訝りながら、変貌していくその表情を見つめ、そしてその視線の先を追って――気づく。
ビルドの瞳は視線は、シドーの左肩に注がれていた。そこにあるモノに、ビルドは驚愕したのだ。
先程まではシドーの顔ばかりを見つめていたのだろう。それに、見るチャンスは多々あったのに、快楽に蕩けて、瞼を閉じたり、恥じて目線を逸らしたりしていたから、気づかなかったのだ。
ビルドの視線の先、シドーのあらわになった左肩に刻まれたモノ。それはまさしく、『噛み痕』というにふさわしいものだった。
けれど、その痕を刻んだのは紛れもない、シドーにとって唯一の存在だ。けれども、ビルドの様子からして、気づいていないのだろう。
『どうするんだろうな』
ほんの僅かに興味を惹かれて、黙ったまま…そしてその表情の変化に気づいたことを悟らせないまま、突起を弄る。途端に甘い吐息が漏れたのが聞こえたが、先程まで隠しもしなかった蕩けた声音だけは、聞こえなくなっていた。それでも構わずに弄り続け、ビルド自身を扱きあげる。直接的で強い体感に、唇からは喘ぎが零れるはずが、このときは耐えたのだろう、何も聞こえなかった。
きっと今頃は、その胸中は快楽と不安とに満ち溢れて、ごちゃごちゃとした思いを抱いているのだろう。…不安ならば、訊けばいいのに。
そう思うものの、ビルドは肝心なところで素直になれない。普段はこれでもかというくらいに、朗らかな感情を思うままに示すくせに、負の部分はすぐさま押し隠してしまうのだ。それが少しばかり…シドーを苛立たせるのを、ビルドは知らないだろう。
それでも、その胸中に渦巻くモノに関しては予想がついて、シドーは苛立ち以上に満足感を得ていた。
ビルドは嫉妬しているのだ。シドーの肩口にあるソレに。自分の『シドー』に痕跡を残した者に。それが誰であるのかも知ろうともしないで。
「…なあ、……そろそろ、いいか?」
それでもそれを何も尋ねられないのに教えてやる義理はない。訊かねば教えてやらない。早く訊けばいいのにと思いながらも、シドーはそれを悟らせずに、ビルドを熱っぽく見つめながら問いかけた。とろとろと溢れるぬめりが零れ落ちる先へと指先を伸ばし、窄まるそこをつつく。
一瞬、びくりと震えた身体は、示されたそこに触れるシドーの指先を感じた途端にひくつきはじめ、意識しているのだろうか、前から零れるぬめりの量が増えた気がした。
いつもと変わらないその反応に、シドーは舌で唇をなぞる。了承を得ずに、ぬめりを纏わせた指で数度入口をつつき、解すように這わせると、ビルドの唇からは熱い溜息が零れた。それでも、いいよ、と頷くことも了承する声もなく、複雑そうな表情が残っているのが見えた。
このまま身体を重ねれば、しこりが残るだけなのにともどかしさを感じて、シドーは眉を寄せた。仕方なしに、ほんの少しの妥協をするかと、ひっそりと溜息を漏らしてす、と伸び上がる。顔を近づけて、歪む瞳を見つめた。少し泣きそうに潤んでいるのを確かめて、そっと唇を寄せる。もちろん、その際に肩口のソレを気にする視線も感じた。
唇を触れ合わせると、先程よりもよほど積極的にあわせてくる。する、と再び背中にまわされた腕にも熱がこもり、確かなビルドのシドーに対する感情を伝えているのに、肝心の言葉にしない。
「……は…、なあ……ビルド」
唇をほんの僅かに離して、潤んだ瞳を見つめた。オレが折れてやるのはここまでだぞ、と音には出さずに呟きながら、シドーは穏やかな声で囁いた。
言いたいことははっきり言わないと、わからないんだぜ――?
それが行為に対するものなのか、あるいは肩口に刻まれたそれに対するものなのか、判断はビルド次第だ。
けれど、それを囁いた途端にぐにゃりと歪んだ表情と、眦に浮かんだ涙に、どちらに取ったのかはすぐさま理解できた。――後者だ。
そのまま黙っていると、ビルドはシドーの背中にまわした腕に緊張を走らせながら、うろうろと視線を彷徨わせ、逡巡して…そして、左肩に刻まれたそれに目を留めて、恐々と…唇を開いた。
「シドー……っ、その、……肩の……」
どうしたの? という小さすぎる声音での問いに、シドーはさらりと返す。
「ああ……これか? えっちのときにつけられた痕だよ」
悪びれた様子もなく即答され、言葉に詰まったのか、それともショックを受けたのか、何もいえないでいるビルドの様子を眺めながら、シドーは戦慄く唇に触れる。…これ以上追い詰めるのは良くないな、と判断して、つ…とやわらかく弾力のある唇をなぞり、潤んだ瞳を見つめた。
「昨日の朝な。……覚えてないのか?」
そう囁くと、ビルドはきょとんとした。昨日の朝、というキーワードに瞬きをする。そして、ビルドは思い当たることがあったのか、ハッとしたように目を見開くと、次の瞬間にはかあ…とその両頬をきれいな朱色に染め上げた。
「あ、あ……」
「……思い出したか?」
笑いながら問いかけると、赤い顔をしながらビルドはぱくぱくと口を開閉させ……やがて、悔しそうにして、腹いせのように噛み付いてきた。シドーの、左肩にある噛み痕に。
「ハッハッハ、痛いぞ、ビルド」
そうは言ってみるものの、言葉ほどには痛くない。がじがじと噛んでみてもそれは手加減されていて、戯れているようなものだ。
そこにある噛み痕を刻まれた、昨日の朝のほうがもっと痛かった、とシドーは思う。あの時は、そう…朝っぱらからビルドを押し倒して、貪っていたのだ。寝起きのビルドが色っぽすぎたのがいけない。
濃厚に、そして淫靡に交わり、獣染みた行為をしていたのだが……ちっとも起きてこない二人を心配したのか、ルルたちが家を訪れた。もちろん出られるはずもなく、気配を殺すしかない。当然、それまで素直に出されていた声は抑えなければいけないわけで。
誰かに聞かれることを恐れて――まったくもって今更なのだけれど――ビルドが、シドーの肩に噛み付いたのだ。無我夢中で、声を抑えるためだったのだろうその行為は、たいした痕も残らないだろうと踏んだのだろうが…思った以上に負荷のかかったそれは、色濃く痕を残した。それからすぐ、お互い慌てて服を着て飛び出したから、そんなことはすっかり忘れてしまっていた。
だから、この痕を見たとき気づかなかったのだ。それが自分がつけたものだとは。
しかも、シドーは噛まれてもなお、楽しげにビルドを揺さぶっていた。ぐちゅぐちゅと卑猥な音をわざと高らかにさせながら、噛みつくビルドの体内を散々に荒らし、快楽と羞恥の狭間で呻くのを心地よく聞いていたのだから。耐えに耐えたビルドの中は酷く熱くてよく締まり、気持ちよかった。
反芻しながらにやりと笑みを浮かべて、がじがじと肩を噛むビルドの解れていない入り口をなぞる。
「…っふ、ぁ……っ」
びくり、と震えて肩から唇が外れた。熱い吐息が少し濡れた肩に触れて、それだけでゾクゾクする。ツツ…といやらしく入り口を数度撫で、シドーは期待に震える身体をさらに開かせようと、滑らかな手触りの太腿を撫で、きれいな形をしている膝をつぅ…と撫でて、膝裏を掴むと、グイと大きく片脚を割った。あらわになったそこはもう、期待と快楽に濡れ、奥のそこなどはもう…
ごくりと生唾を飲み込み、シドーは躊躇わずにそこにぬめりを纏わせた指を差し入れた。急な異物感にビルドの眉が寄せられるが、構わずに根元まで差し入れる。
「……っ」
息を呑み、根元まで到達したシドーの指を締めつける濡れた肉の感触に、ひくひくと震えながらビルドは潤んだ瞳を向けた。唇がぱくぱくと動き、音がなくとも呼ばれているのがわかる。
しどー。
求める瞳とカラダと、音にせずともわかる彼の望み。もともと高揚していた気分が一気に高ぶっていく。
「ああ、…すぐにやるよ」
取り出した自分自身はすでに硬く勃ちあがり、今か今かとビルドの体内に挿入されるその瞬間を待っている。だけどその前に、もっとやわらかく解して、トンでしまうくらいに気持ちよくさせてやらなきゃな、とばかりに、シドーは二本目の指を差し入れた。
「…ぁあ! …シドー…っ」
甘い嬌声が腰に響く。その声音にも潤んだ瞳にも、もう不安の色は見えなかった。
まったく、素直じゃない。そして…可愛いやつだ、とますます己がとらわれていくのを感じながら、ぐちゅり、と濡れた音を纏わりつかせて指を引き抜き、シドーはそこへと濡れた先端を押し当てた。