見た目には硬そうな感じがするシドーの髪を、なんとはなしに弄っていた。
 なんだ? という視線を向けられるけど、特に意味はない。ないけど、何となく触りたい。
「……ちょっとだけ触らせて」
 そう短くお願いすれば、好きにしろと言わんばかりに笑われる。
 意地悪そうな顔なのに、何処までも優しいシドーに安心して、長めの髪を摘まんだり指で梳いたり軽く編んでみたりする。みつあみにするとさすがに嫌な顔をされたから、すぐにごめんと笑って解いた。
 癖がつくわけでもなく、すぐに元通りに戻る黒い髪。
 ――そういえば、いつも結んでいるけど、解いたところは見たことがないなあ。
 なんて、ふと考えて。
「解いてみてもいい?」
 ぎゅ、と髪を縛りつける紐を示してお伺いをたてれば、シドーは特に気にすることもなくいいぜ、と答えてくれた。
 気のいい返事に喜んで、するりと紐をほどいてみる。いつも首の後ろで結ばれていた髪が、豊かにふわりと広がった。
 たくましい背中を覆う黒い髪。結び目の痕すらないそれを再び指で梳いて、その感触をしばらく楽しむ。
 しばらくは好きにさせていてくれたけど、やがてシドーがいきなり振り返った。
「おい、ビルド。そろそろこっち来いよ」
 うん? と首を傾げるビルドにしびれを切らして、ぐい、とシドーが腕を引いてくる。
 彼の目の前にちょこんと座らされ、髪ばっかり弄ってるな、と拗ねた口調で言われて初めて、彼が自分の髪に嫉妬していることに気づいた。
 変なの、髪だってシドーなのに。なんて悠長に考えてはいたが、ふん、と鼻を鳴らしてシドーが自分の髪の毛を掴み、片方の肩から流してくる。
 どくん。
 その途端に、妙に心拍が上がったのは。
「これならいいだろ」
 拗ねた口調はそのままに、いつまでもビルドが見えないのはどうにも落ち着かないと言わんばかりに言い放ったシドーの、普段とは違う雰囲気にのまれて、ポカンとする。
 けれど確かに、この方がシドーの顔を見ながら触れるんだ、と思い直して、しばらく髪に触れていたけれど。だんだん恥ずかしくなってきたのは果たして、どんな理由からなのだろうか。
 その理由に思い至るまで、まだまだ時間がかかりそうである。