鈍く光る刃先の曇りを取る。へこんだ槌の面を滑らかにする。柄の持ちやすさを確かめて、布を巻く。
モンスター退治から、収穫物の刈り取りまで多様に使用される武具類やビルダー道具。出番の多いものから順に、懇切丁寧に手入れをしていく。
メンテナンスは重要だ。いざというとき、それを怠って使い物にならない事態に陥っては大変だから。
だからこうして、雨が降って作業の手を止めざるを得ない時に、ビルドは手持ちの道具たちの手入れをする。
刃毀れ、へこみ、持ち手の破れ。ひび割れ、空気の通り、その他諸々。時として、島の住人たちの道具にも手を入れたりする。
ひとつひとつ丁寧に。
真剣なまなざしで、それらを修繕していくと、あっという間に時間は過ぎてしまう。
ゴロゴロと転がる手入れ済みの道具類。それを手にして、それぞれに配るのは暇を持て余したシドーの役目だ。いつもは背負ってる彼の獲物も、今日ばかりは彼の手を一時離れビルドによってぴかぴかに磨き上げられるのを待っていた。
夕方間際になって、殆どの手入れが終了した。うん、と両腕を上げてビルドは凝り固まった身体を解すように伸びをする。集中したせいか、少し目がちかちかする。見逃さないように注視したからだ。軽く眉間をもみほぐし、ほっと息をついてから立ち上がった。
島中の修繕が必要な道具を掻き集めていっぱいだった工房内には、もうそれらは残ってない。
「シドーに後でお礼言わないと」
ぽつりとそう言葉を落としつつ、最後のひとつ、特に時間をかけて手入れしたシドー専用の獲物を持ち上げる。ずしりと重たいそれはビルドの手には余る。これを軽々振るうシドーの強靭な身体を改めて感じつつ、ゆっくりと工房から出ていった。
朝から降っていた雨はすっかり上がっている。一面曇天だったそれはところどころその名残りを残しているものの、茜色の空が大部分を占め、東の方はちらほらと星が見えだしている。眼下には恵みの雨の恩恵にあずかった緑が濡れ光り、夕日に煌めいていた。
すっかり美しくなった島の見事な景観に目を奪われ、それを作り出したみんなの力が誇らしい。決して自分だけでは作りえない、仲間と協力し、自然と調和して出来上がった美しい眺め。しばし見惚れて、ぼうっと立ちすくんでしまっていた。
「ビルド?」
何をするでもなく島の景色を眺めていたビルドに、不意に声がかけられる。何処の開拓地から戻ってきたのか、それとも案外近くにいたのか。疲れた様子もなくシドーがこちらに戻ってきていた。その手には各開拓地の住民たちにお礼に、と貰ったのだろう。色々な収穫物や飲み物が携えられている。
「シドー。お帰り」
茜さす光に照らされて、戻ってくるシドーがまぶしい。目を眇め、傍らに立つのを待ちながら、やっぱり神様だなあ、なんてのんきに考えた。
けれど、隣に立ってどうした? と首を傾げるシドーは、普段と変わらないビルドの相棒で親友の少年だった。
そのことが少し嬉しくて、口元が緩む。
「何でもないよ。…わ、すごい量」
両手いっぱいに抱えられた品物の数々。仲間たちのあたたかい心遣いを感じて、さらに笑みが浮かぶ。と同時に、手渡すつもりだったシドー専用の武器をどうしようか迷ったが、シドーは器用に手土産を片手で持ち直すと、ひょい、とそれを背に負ってしまった。
ビルドには重すぎるそれを、いとも容易く持ち上げる様に、ちょっぴりジェラシーを感じたのは秘密だ。心ひそかにもっと鍛えようと誓って、気合を入れる。
謎めくビルドの行動にさらに首を傾げたシドーとともに、家に入り直して何を作ろうかと相談する。
「うまいもんがいい」
即答するシドーに笑って、ビルドは頷いた。
ビルドの手によるもの、島のみんなの手によるもの、そしてシドーが携えたもの。
すべてがこの島に息づいていく。
何もなかったこの場所で、あたたかな息吹が広がっているのを感じながら、ビルドは幸せを緩やかに噛みしめた。