ざぁん、と絶え間なく押し寄せては引いていく波を避けるように、浜辺を進んだ。
湿った砂浜にぽつぽつと二人の足跡が続く。それは短い間で、すぐに波にさらわれ消えていくけれど、二人は何も言わなかった。
特に目的があるわけではない。
山頂の神殿を降り、初めて三人で過ごした仮の宿、ルルに言われて作ったパーティー会場を通り過ぎ、何とはなしに海辺に出ただけだ。そんなビルドの後ろを、何も言わずシドーはついてくる。
静かな波の音に、さくさくと砂を踏む音が微かに混じる。
ときおり波を避け損ねて靴が濡れたが、気にしなかった。
最初は一定の速度で、ややあってビルドの歩みは緩やかになった。その背中を見つめながら、シドーはきゅ、と拳を握る。
いつだったか、最近のことのようで、もうずっと昔のような気さえする。
はっと気づけば、二人は初めて出会った浜辺に立っていた。懐かしさがこみあげてくると同時に、どうしようもない感情が胸中に渦巻いた。
ビルドの足が止まる。シドーに背を向けているから、その表情はわからない。笑っているのか、はたまた泣いているのか。それとも、それ以外の表情か。
物づくりをしているとき、一緒に破壊神とハーゴンを倒したとき。ぴんと伸ばしていた背中が、今は小さく見える。そんな背中を見ていると、まるで掻き消えてしまいそうで、たまらずシドーはその手を伸ばした。
背後から頼りない背中を包み込むように抱きしめる。こんなに細い身体であの死線を潜り抜けてくれたのだと思うと、たまらなかった。
「ビルド」
こみ上げる感情が声を震わせる。情けない声だと思った。けど、言わずにはいられない。
「ずっと隣にいるから」
もう何処にも行かない。
ビルドの前から消えたりしない。
ずっと、ずっと。
「シドー…」
誓うように祈るように伝えるシドーの耳に、涙声だとはっきりわかる音で名前を呼ばれる。少し腕の力を緩めてビルドの様子を伺えば、前を向いたままその頬に涙を伝わせて、小さく震えていた。
ああ、泣かせてしまった。
こんな顔などさせたくないのに、と思う。けれど、緩んだ腕の中で身を翻したビルドが、ぎゅう、と縋りついて大きな声で答える。
「僕も……っ、僕も、隣にいるから……っ、ずっと、シドーの隣に……!」
わあわあと泣き出すビルドに胸が詰まる。抱き着いてくる力は、シドーにしてみれば儚い。それでもビルドには精いっぱいの力だとすぐにわかった。
つられて涙ぐみそうになるのをぐっとこらえて、ああ、と力強くうなずく。
「ずっと一緒だ」
だから、泣くなよ。
優しく抱き返して、弱々しい背中をさする。自分のために一生懸命になってくれたビルドが、たまらなく愛おしかった。
一通り泣いて、落ち着いて。ずっとを誓って、戻ろうかと笑いあう。
最初に出会ったこの海辺で、新たな最初の一歩を踏み出した。