愛を誓う




 しなやかな脚をなぞって、唇を触れさせた。
 やわらかな唇の表皮に伝わる、少しだけ冷たいぬくもり。ぴくり、と跳ねたのはくすぐったいからなのか、それともこれだけで感じたのか。
 定かでない反応を感じながら、唇を触れさせたまま伝わせると、抑えに抑えた声が聞こえる。
 頑なに引き結ばれた唇の奥から、それでも漏れ聞こえる声は酷く甘い。――もっと聴きたくて、唇から舌に変えて再び伝わせれば、今度こそ、あ、と掠れた声が鼓膜を打った。
 元より少し高めの声が、普段の数割増しで上擦っている。それは酷く甘美な音で、シドーは身体の奥底を揺さぶられたかのような、衝撃にも似た感覚をその音が聞こえるたびに感じる。
 シドーが与えるものを甘受しては声を上擦らせるビルドは、今何を考えているのだろう。
 蕩けた瞳が熱く潤んでいるのを、脹脛や太腿をわざとらしく舌を這わせながら確かめる。いつもはやわらかな光を宿す眼差しが今ばかりは燃え上がるような熱を持って、シドーを見ていた。
「――…どうした?」
 ちゅ、と唇を落として、ふる、と小刻みに震える脚から離れれば、切なげに眉を寄せたビルドは眦を赤く染めてシドーを見つめる。それはまるで縋るような色を宿していた。
 はっきり言わなきゃわからないぜ、とビルドが何を求めているのか理解していながら嘯いて、ゆっくりと覆い被さる。
「……ッ」
 瞬間小さく息を呑んだのは、疾うにぴったりと密着した下半身の角度が変わったせい。
 既にシドーの剛直はビルドの熱い、熱すぎる体内に取り込まれ、ひたひたと寄り添う内壁にきつく締めつけられていた。それでもシドーはわざと動かずに、彼を受け入れるために開かれた脚を愛撫していたのだ。
 挿入してさほど長くは経っていない。けれど、散々高められてようやく突き入れられた硬いそれを、ビルドの中は歓待して待ち望んでいただけに、いつまで経っても擦ってくれないそれに焦れに焦れて、さっきからねだるように何度も締めつけている。
 それをはっきりと感じているくせに、ときおり意地悪になる元破壊神は誘いねだるそれに耐えてみせて、ビルドを苛んだ。
 早く動いて、と潤んで蕩けた瞳は、今はもう待ちわびた色をしている。それでも唇で言葉でねだれない彼は、焦らすシドーにはっきりと催促できぬまま、何がいいのか自分の脚にばかりご執心の彼に何ひとつ訴えることができない。
 けれど、焦れる身体は酷く素直で、時間が経てば経つほどに、嘘のつけない雄弁な瞳とシドーを受け入れる中が叫びだす。
 早く、…早く。
「素直じゃないな」
 ぽつり、とシドーが落とした言葉にさえ焦れるのに、ビルドの唇は先程から熱く乱れた吐息を漏らすだけだ。
 そろそろ限界か、と限界点を見極めて、ビルドに己の影を落としながらシドーは笑んでみせた。
「ビルド。…ちゃんと言わないと、やらないぜ」
 ほら、と促すようにくい、と腰を突き入れる。根元まで埋まっていたかと思った剛直が、そこよりさらに奥に侵入を果たして、ビルドはその四肢をびくつかせた。それでも咄嗟に唇を噛み締めて、漏れそうな声を抑えてしまう。
 …が、それはシドーの望むところではない。
 不満げな顔をして、くびれの乏しい、それでもシドーをこれ以上ない程に誘惑する腰をなぞって、硬くそそり立つ先端を待ち望む内壁に擦りつければ、大仰に跳ねた身体がじゅくりと潤んだ気がした。
 ようやく待ち望んだ愉悦の欠片が、ビルドを素直にさせていく。
 覆い被さるシドーの身体の下で、しなやかな両脚が自然とそれまで以上に割り開かれる。シドーが動きやすいようにと学んだ肢体が無意識に起こす動作、そしてその身体の勝手な行動に恥じて、眦をいっそう染め上げながら、ビルドの唇が音を立てずにようやく、望むことを口にした。
 えっちして、口早に、音もなく告げられたおねだりは、けれど覆い被さり唇の動きをしっかりと見つめていたシドーにはすぐさま伝わった。
 ふ、と笑んでいた表情が一変する。
 がし、とビルドの腰を鷲掴み、体内に納めた剛直を引き抜く。抜けてしまいそうなほどぎりぎりまで引き抜いたそれを、今度は襞を捲りあげるかのような力強さで突き入れて、ぐちゅりと再侵入を果たしたシドーは、たった一度の往復だけで喜びさざめくビルドの体内の歓喜をありありと感じながら、律動を刻み始めた。
 ぐちゅぐちゅと濡れた音を奏でて、ビルドが待ち望んだ刺激を与える。熱を孕む内壁を剛直で擦り、摩擦して、先走りの滲む先端で突いてやり、敏感なしこりを潰して押して、存分に愛してやる。
 そうしながら、片手を腰から離して、声を抑えようと唇に手の甲を押し当てるビルドのその手をとって、指の一本一本まで絡めるようにして繋ぎ、寝台に押し付ければ、自由を失っていないもう片手で乱れたシーツを掴んで繋がるそこから全身に行き渡る快感に耐えていた彼の唇から、とうとう歓喜の声が放たれた。
「…あ、…あぁ…っ!」
 普段の何割増しだろうか。甘く掠れ、上擦り、熱帯びて淫らなその音色は、シドーの鼓膜を何度も打ち据えて、彼の中心へと影響を与える。より熱が集まり、大きく変貌を遂げたのだろう、びくびく、と腰が戦慄いて、体内のきつさが増した感覚がした。
 汗に濡れた髪を振り乱し、首を振って快感に耐えるビルドが、必死に繋いだ手に力をこめて、勝手に揺れる腰がシドーのそれを一番弱いところに招こうとしている淫らな己の身体の動きに恥らう。
 それでいいのに、と快楽に霞む脳裏で一言漏らし、シドーはビルドがねだるそこへと雁首を向けた。
 特に弱いそこは、シドーの先端が触れ、雁首に引っ掛けられてぬちゃりと音を立てて擦りあげられた瞬間、それまで以上の快感をビルドに齎した。
「あぁあああ…っ!」
 甲高い歓喜の悲鳴、そしてきつく収縮する内壁が、そこがイイのだと、もっとして欲しいと如実に知らせてくる。
 心得たとばかりにそこばかりを攻めれば、強すぎる快感に生理的な涙を伝わせて、ビルドが乱れる。いつもの笑顔が今はない。在るのは、シドーに愛されて蕩けた、甘い顔。
「は、あ、あ…っ、あっ、あぁ…ッ! しど…ぉ…っ」
 ぎゅう、と繋いだ手には力がこもり、潤んだ瞳が律動を刻み眉を寄せ、乱れた呼吸を繰り返してはビルドの体内を荒らすシドーを見上げた。
 はくはくと足りない酸素を求めながら、甘い声も漏らす唇から零れた途切れ途切れの自分の名前に反応すれば、シーツを握っていた手が離れてシドーの後頭部に添えられる。かと思えば弱々しく己に引き寄せるその儚い力に、求められているものに気づいて唇を寄せた。
 熱い吐息を漏らす唇と唇が重なり合う。何度か触れ合わせ、やがてどちらともなく覗かせた舌と舌が絡まりあって、くちゅりと音を立てたが、それにも増してひっきりなしに律動を刻む下肢からはより濃い水音が響いて、二人分の体重を受け止める寝台が軋む。
 混ざり合う音が二人の鼓膜を揺らしたが、それを気に留めることもなく合わせた唇と下肢が、よりいっそう深く繋がって、溢れだしそうな感情が双方の胸中に満ちていく。
 やがて銀の糸を繋いで唇が離れ、極めるべくシドーがその動きを速めれば、ビルドはン、と喉奥で感じた声を漏らして、ぐちゃぐちゃと淫らがましい音を立てながらずぶずぶと自分の体内を行き来する灼熱の塊を締めつけた。そのきつい抱擁を振り払い、シドーは存分に熟れた内壁を擦りたて、限界へと突き進む。
 境目がわからなくなるほどに熱く擦れあった体内で、先に限界を迎えたのはビルドだった。がくがくとその肢体を戦慄かせ、とろとろとはしたなく濡らしたそこをシドーの腹で擦られて、いよいよ昇りつめようとしているのを知ると、シドーは自分も極めるべく、その動きを大きく激しいものへと変えた。
 粘り気のある音とともに、肌と肌がぶつかる音が大きくなる。同時にビルドの甘く上擦る声も大きくなり、寝台が軋む音も最高潮を迎え、やがて不意に止まった。
「あ、あっ、ああぁあああーッ!」
 感極まった歓喜の悲鳴が迸り、体内を満たす熱い体液と同じ熱を解き放って、びくびくと身体を震わせる。その様を見下ろして、緩い律動を繰り返し最後の一滴に至るまでビルドの中に吐き出したシドーは、やがて深い吐息を漏らすと、泣き濡れたビルドの眦に唇を寄せ、浮かんだ雫を吸い取って、そっと唇を重ねた。



 愛されたしるしを体内に放たれ、奥から熱いそれに満たされて、ようやく呼吸を整えたビルドがとろりと蕩けた瞳を向ける。
 その視線の先には、何も知らなかったビルドに愛を教えた元破壊神がいる。
 ビルドを愛してくれた彼は、精悍な顔にやわらかな笑みを浮かべて、ビルドを見つめ返した。
 言葉は、今は要らない。
 どちらともなく惹かれあうようにして唇を寄せ、重ねる二人の互いの胸に浮かぶのは、



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