湯舟に浮かぶ長い髪を指先に絡めて、その硬質な感触に目を細める。
しっとりと濡れたそれは、見た目のそれに反して思いのほかやわらかく、つやつやとしている。乾いた状態ではするりと逃げていくが、湿っている今はビルドの指先で弄ばれるのをよしとして、優しく細い指に絡まってくれた。
その感触が愛おしくて、何度も指先で触れてしまう。ときおりはらりと落ちてしまうが、なみなみと張られた水面に浮かぶそれも好ましく、ビルドの笑みは絶えない。
まるで気に入りのおもちゃを手放せないこどものように無邪気に、何度もそれを繰り返す。いつまでも触れていたいと夢中になっていた。
しかし、夢中になりすぎるビルドを面白くなさそうに見つめる瞳があった。最初こそ可愛いなと黙ってみていてくれたようだが、それが何分もとなるとあまり我慢が得意でない方の限界はすぐに訪れる。
ややあって、ビルドは背後からの唸り声に気づいた。
「……いつまで髪の毛弄ってるんだ?」
低い声に促されて、ビルドはゆるりと振り返った。聞こえる不機嫌そうな声は、少しだけ拗ねた響きを帯びているのに、間近に見えたやや凶悪そうな顔にはそれをおくびにも出さない。それどころか、普段と違う雰囲気にどきりとさせられる。
「だって、シドーの髪、触り心地いいから」
そう呟きながらビルドはくい、と優しく髪を引っ張った。すると、さして痛くもないだろうに、痛いぞ、とシドーが目を細める。そんな顔にまたどきりとさせられつつ、ビルドは平静を装って引き寄せた髪に唇を寄せる。ちゅ、と音をたててなめらかなその表面にキスをすれば、ちっ、と舌打ちをする音が聞こえた。次の瞬間、ばしゃりと音を立てて静謐な水面が波を打つ。ざぱ、とひたひたに張られていた湯が弾みで零れ落ち、流れていく音を聞きながら、浴槽に寄りかかるのをやめたシドーによってビルドは頤をとらわれる。
「そっちじゃないだろ、ビルド」
今度こそはっきりと、不満も露わに顰められた顔が近づいてくる。髪だってシドーなのに、と笑った唇はすぐさま塞がれて、やわい感触に呑まれていく。それだけでなく、身を浸す湯よりも熱い舌が潜り込んできて、余所事を考える余裕さえ奪っていった。